ドラマ遺産争族も第6話まで回が進み感情の縺れと法律の規定という動と静が絡み合ってますます目が離せない展開を見せています。次々に生じる出来事に翻弄され剥き出しになっていく感情。一方で法律の規定は家族のぶつかり合いなどとは全く無縁で、常に一定なわけです。

ただ、このドラマは争い合う家族の目線で描かれているため、今のところは法律問題はやや曖昧にしている感があります。そこをあえて冷静に法律の目線で分析してみるのも楽しみ方の一つです。

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あらすじ『遺産争族 第六話』

明らかになった龍太郎の遺言に河村家は大混乱、全財産の管理を一任される形となる育生は拒否の姿勢を示すが家族の疑いは拭えず、次女月子の一人息子の正春はショックのあまり家を飛び出し行方不明になり、会社には依願退職の申し出が届く。

そんな中、育生の別れた父親が突如として現れ、育生の心は揺れる。父親が自分に会いに来たのはカネが目的なのか、それとも息子を思う父親の自然な感情なのか。カネに振り回されることを拒んできた育生自身だが、実は知らぬ間にカネに振り回されていたのではないかと考え始める。

一方、河村家の混乱は更にエスカレートし、とうとう楓の母である長女陽子が激しい罵り合いの末、夫恒三に離婚を申し出る。

激しい家族の争い、いがみ合いの現場でたまりかねた育生は「あんたらみんなバカだ!」と叫び家を飛び出す。そして龍太郎の病室をひとり訪れ、「カネのために家族がバラバラになっている、だったら僕に全額下さい」と申し出るのだった…

 

相続人以外への遺産分与-遺贈

遺言によって法定相続人以外の人や団体などに遺産を分与するひとつの方法は遺贈です。遺贈とはその言葉通り、遺言によって贈与することです。贈与は個人に対しても、団体に対しても行うことが出来ます。ドラマの中では海外で医療活動を行う団体に全額を寄付するという話になっていますね。

この事が河村家の人たちを大混乱に陥れているのですが、どうやらみんなは全額、という言葉に惑わされているようです。

というのは、被相続人から見て直系卑属に当たる3人の娘たちには遺留分という権利が認められている為、それぞれが家庭裁判所に 遺留分減殺請求 を申し立てることにより、本来の法定相続分の1/2は確保することが出来ます。龍太郎の資産が10億円とすると3人それぞれの法定相続分が約3億3千万円、その1/2の約1億6千万円は確保できるのです。

それでもあれほどいがみ合う必要があるのでしょうか?

残念な気がしますね。

 

孫の婿への遺産分与-養子縁組

養子縁組をすることで、本来相続人ではない孫の婿の育生に相続権を生じさせることが出来ます。養子縁組により龍太郎と育生がそれぞれ養父、養子になれば、育生には他の実子3人と同じ法定相続分が認められます。

つまり龍太郎にもしものことがあった場合、3人の実の娘たちと養子の育生の4人で均等に分けることになるのです。

養子縁組は両者が生存している間に行う必要がありますので、龍太郎は遺言によって養子縁組を行う事は出来ません。また、龍太郎が望む全額を育生に相続させるという点については前述のとおり、3人の娘たちに遺留分がありますので実現は困難です。

 

生前贈与

ドラマの中でしばしば出てくる言葉に生前贈与があります。では生前贈与と遺贈の間にはどんな違いがあるのでしょうか。

実は大きな違いがあるのです。

遺贈や死因贈与といった死者からの贈与に関しては相続税の対象となり、贈与税はかかりませんが、生前に行う贈与は贈与税の対象となるのです。そして贈与税、相続税の間には金額に大きな違いがあります。

 

相続税と贈与税

仮に龍太郎の資産が10億円という仮定の上で試算してみましょう。

相続税には特例としてさまざまな軽減措置が用意されており、諸条件によって少々複雑な計算が必要になりますが、今回はあくまでこまかな条件を無視した試算とさせて下さい。

 

まず、相続税です。

相続の形をとった場合、法定相続人が実子3人、養子(となった場合)育生を合わせて4人となります。

そうすると基礎控除が3000万円+600万円×4人=5400万円となりますので10億円から5400万円を除いた残りの部分に相続税が発生します。

3億2千万円くらいになる計算です。

※養子は、被相続人に実子がいる場合1人まで、実子がいない場合は2人までをカウントします。

 

次に、贈与税です。

もしも龍太郎が生前に全ての財産を子供達に分与することを決意した場合(ありえないこととは思いますが)子供達に贈与する事になります。

そうすると基礎控除が110万円ですので贈与する対象ごとに110万円の基礎控除を除いた残りの部分に贈与税が発生します。

3人に分けるのか、育生を含めた4人になるのか、あるいはそれぞれに分ける比率などにより差は出るものの5億5千万円くらいになる計算になるはずです。

2億円以上の差が出ますね。

龍太郎を最後まで看護し、その死後は龍太郎への感謝の思いを抱きつつ、法定相続分に従って仲良く分割相続するというわけにはいかないものでしょうか。

なんだかこの遺産争族、争えば争うほど一番得をするのは税金を徴収する国、とういう事になるかもしれません。

 

今回のポイント『遺産争族 第六話』

育生が龍太郎の財産を全額受け継ぐことはなかなか難しそうです。遺贈、養子縁組のいずれの方法を取るにしても龍太郎の3人の娘たちには直系卑属に認められている遺留分があります。

そこで今回のポイントですが、相続権のない子や孫の配偶者などに遺産を分与したい時、取り得る方法として

①遺贈

②養子縁組

があります。

しかしいずれの方法を取るとしても、

③遺留分

に配慮する必要があります。

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K.I.G.行政書士事務所

東日本大震災をきっかけに、法律、制度、行政サービス等で知らない人が損をする事がないよう、市民に寄り添う市民法務サービスの提供を志し開業致しました。得意分野は相続、遺言、エンディングノートの活用といった市民法務分野ですが、各種許認可、会社設立のご支援等により中小規模の事業者を法律、手続き面で支えるサービスを提供しております。