遺言の例をご紹介します。

次にご紹介する例では、遺産の分割方法を指定する遺言となっています。

-

 

遺言がない場合は法定相続分通りに遺産分割を行うことを基本に話し合いが行われるでしょう。

しかし、相続財産に不動産、特に相続人の誰かが居住中の土地家屋が含まれる場合は特別な配慮が必要になってきます。

なぜなら、金銭的な価値以上の意味を持たない預貯金、有価証券等の金融資産と違い、不動産、特に居住用の不動産には金銭的な価値以上の意味が関係するからです。

例えば、遺言者の年老いた配偶者が残される場合は如何でしょうか。

金融資産と同じように金銭的価値で分割してしまったら、あるいは配偶者が住み慣れた不動産を相続できなくなってしまったら、愛する人を失うと同時に住み慣れた土地も追われる結果となり、それは特に高齢の人にとって大きな障害となりえます。新しい土地、新しい人間関係、気楽に頼みごとができる近所の人や、長年付き合ってきた商店も、新しい土地では一から築いていかなければなりません。

そのようなことにならないためにも、遺言によって意思表示をすることにより、後に残された配偶者の生活が立ち行かなくなるような事態を防がなければなりません。

早速、遺言の例を見てみましょう。

 

遺言の例

遺言者の目的、思いに注目してみてください。

遺言-03 遺産分割方法の指定.pdf

 

遺言の目的

この例では相続財産の分割の割合ではなく、分割の方法そのものを指定しています。

法定相続分通りであれば、次のようになるはずです。

妻・山田花子 ・・・ 二分の一

長男・山田一郎 ・・・ 四分の一

長女・川野みどり ・・・ 四分の一

そして、法律には分割割合は規定があるものの、分割の仕方、つまり誰がどの財産を相続するかに関しては何も指定はしません。

すべてが金融資産であればそれも問題ないでしょう。現金にしろ、有価証券にしろ、換金したばあいの価値に差があるわけではないからです。

しかし、前述の通り、土地家屋については居住者の生活という問題が関係しています。

残された妻の花子さんにとっては5,000万円の現金よりも2,500万円の価値であったとしても現在住んでいる家に住み続けられる方がありがたいという場合もあるのです。

 

遺言者の思いは、残された妻がこれまで通りの生活を継続することができるように、という点にあります。

そのため、不動産はすべて妻が相続できるように、そして息子と娘には金融資産が渡るように遺言を遺したわけです。

 

説明されれば誰もが納得しやすい理由ですね。

 

遺言作成の注意点

そして、ここでの注意点を挙げておきます。

①遺留分に注意

②納得できる説明

遺産に占める不動産の割合が大きすぎる場合、特に注意しなければならないのは遺留分を侵害しないように、という点です。

※遺留分について、詳しくは他の記事をご参照ください。

遺産分割というのは非常に繊細な問題が関係することが多く、特に相続人当事者のみならず、その配偶者や子供、あるいは他の親族、場合によっては相続人の債権者など、多くの人が絡む問題に発展する場合もあります。

そのため、遺留分の侵害というような後々問題になりそうな点はあらかじめ排除しておかなければなりません。遺産のほとんどが居住中の不動産であるような場合は専門家のアドバイスの下、事前の対策が重要です。

 

また、納得できる説明がされているか、という点も重要です。

なぜなら人は理由のわからない指示よりも、理由のはっきりした指示を受け入れやすいからです。

例えば、「立ち入り禁止」とだけ書いてある看板と、「立ち入り禁止 ー 高圧電流のため」と書いてある看板ではどちらの看板に効果が期待できるでしょうか。

もちろん、納得できる理由の添えられている後者であることは疑いの余地がありません。

必要に応じて遺言に付言事項を加える、あるいは事前に遺言について相続人すべてにその思いを十分に説明しておくなどの配慮はその後の遺産分割をスムーズにし、人間関係を良好に保つ上で大きな助けになるに違いありません。

 

遺言執行者

場合によっては、遺言執行者を指定しておくことも検討してみてください。

遺言執行者とは遺言者に代わり、その遺志を実現するために働く人です。

そして遺言の執行に関する遺言執行者の権限は強く、民法1013条には「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」と規定されています。

 

信頼できる人、できれば事前に相続人とも面識のある、法律知識の豊富な人に遺言執行者となってもらえば安心でしょう。

遺言執行者は遺言者が遺言の中でその指定を行うことができます。(民法1006条)

-

K.I.G.行政書士事務所

東日本大震災をきっかけに、法律、制度、行政サービス等で知らない人が損をする事がないよう、市民に寄り添う市民法務サービスの提供を志し開業致しました。得意分野は相続、遺言、エンディングノートの活用といった市民法務分野ですが、各種許認可、会社設立のご支援等により中小規模の事業者を法律、手続き面で支えるサービスを提供しております。