前回、第八話の中で、葬儀に関する価値観の多様化について触れられていましたが、遺言、相続に関しても考え方はそれぞれです。

であればこそ、日常の中で理解を深め、価値観を認め合う努力を続けるという事は大切なことなんだなあと考えさせられます。

遺産争族もついに最終回、第九話です。

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あらすじ『遺産争族 第九話(最終回)』

龍太郎の書斎から出火した火事により河村家は半焼。

育生の適切な誘導により家族は家の外へ逃れるが、金庫が気になる龍太郎は書斎へ戻ってしまう。

その後を追う育生。

育生の静止を振り切り龍太郎が金庫を開けると、その拍子に金庫の中に引火し2億円のタンス預金は燃え上がる。

なんとか命だけは助かったものの病院へ運ばれた龍太郎の落胆は大きかった。

そしてまた、育生も。

自分の存在がきっかけになり家族がバラバラに分裂して、挙句の果てに火事まで引き起こしてしまったと気に病む育生は、河村家にとっても楓にとっても自分の存在は好ましくないのではないかとまで思いつめてし まう。

心を閉ざしてしまった育生の前に、楓も夫婦を続けていくことへの限界を感じ始めるが、母陽子の「夫婦は忍耐よ」の一言で我に返る。

家出中の育生だったが、一計を案じた母華子と河村家の家族たちにまんまと乗せられて河村家へ戻る。

容赦なく本音をぶつけあう育生と恒三、河村家の人々。しかしみんなの胸には和解へ向けた確実な手ごたえが固まりつつあった。

そしてそんな家族の傍らで龍太郎は静かに息を引き取る…

 

耐火金庫は開けるな!

ドラマの中で、火事に動転した龍太郎が金庫を開けた途端、金庫の中が火に包まれた様子は迫力がありました。龍太郎が金庫へ向かうのを見て、耐火金庫の仕組みを知っている人は「やめろー!あけるなー!」と、育生と同じように思わず声を上げてしまったのでないでしょうか?

そうです。火事の時、耐火金庫は開けてはいけないのです。

なぜなら耐火金庫は密閉することにより外から空気(酸素)が中に入らない仕組みになっているからです。

酸素が無ければモノは燃えません。

火事により内部の温度が上昇し、発火点を超えていても、外から酸素が入らない限り中身は燃えずにいるこ とができるのです。

では、外から酸素が入るとどうなるでしょうか?

ドラマの中で描かれていたように爆発的に燃えることになります。

紙が燃える温度は約200度ですから、火事が収まった後、金庫の内部が十分に冷えてからでなければ、耐火金 庫は決して開けてはいけないのです。

 

今回のポイント『遺産争族 第九話』

そもそも2億円もの現金をタンス預金として自宅に保管していたのは何故でしょうか。

龍太郎は以前妻が死去した際、銀行口座が凍結されて困ったからだと説明していました。

人の死亡に伴い、遺産相続が開始されますが、分割協議がまとまるまで銀行口座は凍結されます。

一方で葬儀や医療費の支払い等ですぐにまとまった現金が必要になることも確かですから、前もって備えが 無ければ困ってしまうことも考えられます。

当座必要になるお金は前もって誰かに預けておくか、自宅に保管しておくことも必要になるでしょう。

しかし2億円は必要ありませんね。

葬式代として(平均200万円程度ともいわれていますが)200万円、あるいは300万円程度のお金は金庫に保管 していたとしても、残りの1億9700万円は銀行口座に入れておけば、火事を逃れることもできたのに…

 

ドラマ『遺産争族』を振り返って

最終的には家族の絆を取り戻すことができた河村家でしたが、焼失した2億円のタンス預金をはじめとして 、失ったものも多かったのが事実でしょう。

そもそもなぜこんな事になってしまったのでしょうか。

第八話で龍太郎と子供たちがそれぞれ自分の思いを率直にぶつけ合うことができましたが、それまでは思い を理解しあうことができませんでした。

思いを伝えるというのは本当に難しいものですね。

今回のドラマの中心には常に「遺言書」が存在していましたが、遺言書というのは民法の規定に従って作成 する厳格な要式行為、言い換えると自由の利かないものです。

それは時として家族の中に大きな遺恨を残す結果に繋がりかねません。

特に遺産を残す側にとって、自分の死を前提とした話題は避けたい気持ちは当然あると思いますが、日ごろ から気持ちを伝えあうことを意識することで無用な争いを避けることができることも事実です。

また、遺言の他に最近流行りの「エンディングノート」を作成するなどして、自分の気持ちを死後に渡って 家族に伝える備えをしてみることも大切かもしれません。

ドラマ「遺産争族」は、私たちの誰もがやがて経験することになる問題を深く考えさせるきっかけを与えて くれたのではないでしょうか。

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K.I.G.行政書士事務所

東日本大震災をきっかけに、法律、制度、行政サービス等で知らない人が損をする事がないよう、市民に寄り添う市民法務サービスの提供を志し開業致しました。得意分野は相続、遺言、エンディングノートの活用といった市民法務分野ですが、各種許認可、会社設立のご支援等により中小規模の事業者を法律、手続き面で支えるサービスを提供しております。