【Q】遺言による相続人廃除はできますか?
末期のガンと診断された太郎さん、家族は妻と一人息子の一郎です。
妻の花子は長年自分を支え、病気になってからも献身的に介護をしてくれているので、感謝してもし足りないと感じています。
一方でひとり息子の一郎は40歳を超えた今でも定職に就かず、問題行動を繰り返しており、太郎さんは一郎の借金の肩代わりも何度かしてきました。
さらに最近では度々金の無心に来るようになり、気に入らないと暴力を振るうことも多くなりました。暴力を振るわれた妻が手首を骨折したことさえあります。
このままでは残された妻が心配だし、息子に相続など絶対にさせたくないと考えています。
このような場合、つまり相続人に非行などの特別な事情がある場合、相続人から廃除するよう家庭裁判所に申し立てることができますが、遺言によってそうする事も可能でしょうか?
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【A】専門家の回答
将来相続人になることが予想される関係にある人、つまり推定相続人に非行や被相続人となる人に対する虐待や侮辱に当たる行為など、特別の事情がある場合、被相続人となる人の申し立てにより、裁判所は相続人の廃除を審判により認めることができます。この相続人廃除の申し立ては遺言によって行うこともできます。
ただし、その場合は虐待や侮辱、暴行などの事実があったことを示す証拠を残しておくことにより裁判所に申し立てを認められやすいようにする必要があります。
民法892条には相続人の廃除を行う為の要件が次のように挙げられています。
1. 被相続人に対する虐待
2. 被相続人に対する重大な侮辱
3. その他の著しい非行
その他の著しい非行とは例えば以下のような場合が考えられます。
1. 被相続人の財産を不当に処分した
2. 賭博などを繰り返し多額の借金をつくりこれを被相続人に弁済させた
3. 浪費、遊興、犯罪行為など親泣かせの行為を繰り返した
4. 重大な犯罪行為を犯し有罪判決を受けている
5. (相続人が配偶者である場合)婚姻を継続しがたい事由があること
6. (相続人が養子である場合)縁組を継続しがたい事由があること
家庭裁判所はこれらの事由があったとしても必ず相続人の廃除を認る訳ではなく、慎重に審議を行う傾向がありますので前述のように事実を示す証拠を残しておくことが必要になるでしょう。
では、相続人の廃除を含む遺言の例を一つ挙げます。
遺言書
遺言者田中太郎は次の通り遺言する。
1.妻田中花子に次の財産を相続させる。
(1)以下に挙げる土地、建物、金融資産他、遺言者に属するすべての財産
土地 所在 XX
建物 所在 XX
銀行預金 XX銀行XX支店 口座番号XXX
2.長男田中一郎は定職に就かず、問題行動を繰り返しており、遺言者は借金の肩代わりも何度かしてきた。
さらに最近では度々金の無心に来るようになり、気に入らないと暴力を振るうことも多く、暴力を振るわれた妻が手首を骨折したことさえある。
遺言者による度重なる注意も聞かず、改心する見込みもない。よって遺言者の長男田中一郎を相続人から廃除する。
3.この遺言の遺言執行者としてXX県XX市XXの行政書士佐藤茂を指定する。
平成XX年X月X日
遺言者 田中太郎
遺言により相続人の廃除を行う場合は、遺言例の3にあるように、遺言執行者を指定することが必要です。
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K.I.G.行政書士事務所
東日本大震災をきっかけに、法律、制度、行政サービス等で知らない人が損をする事がないよう、市民に寄り添う市民法務サービスの提供を志し開業致しました。得意分野は相続、遺言、エンディングノートの活用といった市民法務分野ですが、各種許認可、会社設立のご支援等により中小規模の事業者を法律、手続き面で支えるサービスを提供しております。