遺産争族の第5話は遺言の中でもやや特殊な特別方式遺言の危急時遺言を取り上げています。この危急時遺言は普通方式の遺言が不可能である特殊な条件の下で限定的に認められている遺言です。
普通方式の遺言(自筆証書遺言や公正証書遺言等)とは手続きや効力に違いがありますので注意が必要です。
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あらすじ『遺産争族 第五話』
財産を巡る娘たちの争いに遭遇し、その場に倒れこんでしまった龍太郎のただならぬ様子に、言い合いをしていた娘たちは我に返り恒三に連絡を取る。居合わせた育生はすぐに救急車を手配し、自らも河村家へ向かった。駆けつけた救急車内で龍太郎は付き添う育生の耳元に声にならない声で何事かを囁き、一枚のメモを渡す。
病院に搬送された龍太郎は心筋梗塞で危険な状態にあり、河村家の家族が次々に駆けつける。一方育生は龍太郎に渡されたメモにある電話番号へ連絡すると、電話に出たのは弁護士事務所だった。
突然現れた女弁護士に戸惑う河村家の人々。女弁護士は危急時遺言を作成すると家族に告げる。
弁護士の主導の下、家族を入れず、医師2人を証人に加え、龍太郎の危急時遺言が始まる。そして次女月子の息子が仕掛けた盗聴器によって明らかになった龍太郎の衝撃の遺言に河村家は再びパニックに陥る。
誰もが驚くその内容は、医療過疎地で医療活動を行う団体に全額寄付する、そしてその寄付先の選定は育生に一任するというものだった。言葉を失う育生、そして家族の疑いのまなざしが育生に集中する…
危急時遺言とは
病気やけがなどで死に直面した人が遺言を遺したいが通常の普通方式の遺言の作成は困難な場合に認められる遺言の形式で民法976条に規定されています。
この方式の遺言を行うには、証人3人以上の立会いが必要であり、遺言者の口述内容をうち一人が筆記し、遺言者および立会いの証人に読み聞かせた後、各証人が署名捺印することにより作成します。配偶者や子供など、推定相続人となる人は証人になることはできません。遺言者本人が署名捺印する必要はありません。
さらに、作成した遺言は作成日から20日以内に家庭裁判所による確認があってはじめて効力を生じます。
危急時遺言の効力
前述のように危急時遺言は家庭裁判所の確認を経てその効力を生じます。では、遺言者の死亡により相続が開始した際、自筆証書遺言のような裁判所による検認は必要ではなくなるのでしょうか?残念ながらそうはなりません。
民法1004条の規定によると、家庭裁判所の検認が不要とされているのは公正証書遺言だけです。
そもそも検認とは,相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。そのため、家庭裁判所の確認を経て作成されている危急時遺言も検認が必要なのです。
さらに、危急時遺言は通常の遺言とは異なり、その効力に期限があります。民法983条には「…遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から6か月間生存するときは、その効力を生じない」と規定されています。つまり、危急時遺言は緊急の場合の一時しのぎの手段であって、緊急事態が解かれたのち、通常の方式により改めて遺言し直すことが前提とされている規定なのです。
他に取り得る手段はあるのか
今回、龍太郎の容体は予断を許さない状態にあったとはいえ、危急時遺言の場面ではかなりしっかりとした口述を行っていましたし、文字を書くこともできそうな状態に見えました。実際の場面においては危急時遺言を使わなくとも、公正証書遺言を作成することもできたかもしれません。時間的余裕があれば、という前提条件は付きますが、公証人に出張してもらって、医師2人を証人に、公正証書遺言を作成することは可能です。自署が困難な場合は公証人による代筆も認められています。
公正証書遺言を作成すれば、裁判所の確認、検認も不要ですし、前述した6か月の制限もありません。
遺言の有効性
ところで、今回の龍太郎の遺言の内容は有効でしょうか?
一部はYes、一部はNoです。
龍太郎の遺言の内容はまだそのすべてが明らかになったわけではありませんが、もし、全額を寄付すると遺言しているとしたら、直系卑属である娘たち3人には遺留分が認められるので3人が遺留分減殺請求を家庭裁判所に申し立てることにより、遺留分を侵害する部分において遺言は無効となりそうです。遺留分を侵害しない部分はそのまま有効となりますので、龍太郎の財産の半分は寄付され、半分は3人の娘たちにより分割相続されることになるでしょう。
今回のポイント『遺産争族 第五話』
では、今回のポイントとして危急時遺言についてまとめます。
病気やけが等により普通方式の遺言が困難な場合、一定の条件の下で認められている遺言の方式に危急時遺言があり、その活用には以下のような条件があります。
①病気やけが等により死亡の危急に迫っている
②証人3人以上の立会がある
③遺言者が遺言の内容を口述し、証人のうち1人がそれを筆記する
④筆記した証人がその全文を遺言者及び他の証人に読み聞かせる
⑤各証人が筆記の内容が正確であることを承認し署名捺印する
⑥遺言の日から20日以内に家庭裁判所による遺言の確認を受ける
また、遺言者が普通の方式の遺言をすることができるようになった時から6ヶ月間生存したときは危急時遺言は失効します。
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K.I.G.行政書士事務所
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