遺産を巡る家族間の不協和音は、遺産を残す側、つまり当の本人が存命中から始まることも珍しくありません。
残していかなければならない家族への思いはあれど、遺産争族は自分の死を前提とする問題、そしてそれを巡る家族それぞれの思いの狭間に立って、複雑な思いからいっそのことすべてを使い切ってから死にたいと口にする人もいるようです。
しかし、事はそんなに単純にはいかない訳で…
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あらすじ『遺産争族 第八話』
遺産を巡ったドタバタが続く河村家一族の前で「遺産を相続します」と言い出した育生の豹変ぶりに一同はあっけにとられる。さらに、医者を辞めて家業のカワムラメモリアルを継ぐことを宣言。
予想外の展開に戸惑う龍太郎に弁護士は遺言の書き直しを提案するが、何度も書き換えるようなみっともないマネはできないと受け入れない。
ならばいっそ使い切ってしまおうと、80年の人生で我慢し続けてきた分を取り戻すべく2億円のタンス預金を持ち出し、あれこれと考えるが苦労して築いた財産を思い切って使うことはなかなかできない。
思い直した龍太郎はタンス預金を7等分して袋に詰め、金庫に積み上げるのだった。
ますます混迷を深める河村家ではついに弁護士立会いの下、家族会議が開かれ、家族それぞれが思いを吐露する。
家族それぞれの思いを受け止めた龍太郎は自らの気持ち、引退後ただやることもなく死を待つような感覚を持て余し、家族からも阻害されているように感じて寂しさを募らせた自分の気持ちを初めて家族にぶつける。
家族に向かい頭を下げてこれまでの遺言書を破り捨てる龍太郎と、それを見つめる子供たち。
こうして育生があえて憎まれ役を引き受けることで河村家の人間関係は修復に向かうかに見えたが、ちょうどそのころ河村家の階上の部屋、龍太郎の書斎では蝋燭から燃え移った火がメラメラと炎を上げていた。
破った遺言書はどうなる
さて、ドラマの中で龍太郎がそれまでに作成した遺言書を次々に破り捨てる場面がありました。
このように破り捨てられた遺言書はどうなるのでしょうか?
破って捨てたのですから、その遺言書は撤回される、あるいは元々無かったものとなるでしょうか。
実はそうなる場合とそうならない場合があるのです。
そうならない、つまり破り捨てても撤回したことにならない場合とは、その遺言が公正証書遺言である場合です。
なぜでしょうか?
他の形式の遺言書と異なり、公正証書遺言は公証役場に原本が保管されているからです。
そのため、手元の遺言書を破り捨てても、原本は存在し続けることになり、それは有効なものであることに変わりはありません。
遺言を撤回するには
では、遺言を確実に撤回するにはどうしたらよいのでしょうか。
遺言を撤回する旨の遺言書を新たに作成すればよいでしょう。
「私、○○は、これ以前に作成した遺言すべてを撤回する」
この一文の遺言書を作成します。
気をつけなければならないのは、この新たに作成する遺言自身が無効なものとされないようにという事です。
というのも、遺言書というのは厳格な要式行為であり、民法の規定に厳密に従わなければ有効とされないからです。
※民法960条:遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
今回のポイント『遺産争族 第八話』
今回のポイントですが、ここまでの話とはちょっと別の点を挙げてみたいと思います。
カワムラメモリアルの業務を体験した後に、恒三に連れられて行ったラウンジ(?)で育生が話す葬儀に関わる近年の傾向の中に、直葬という言葉が出てきました。
直葬とは何でしょうか。
これは火葬式とも呼ばれ、通常の葬儀のようにお通夜や告別式などの儀式を行うことなく、火葬場で行われるごく親しい人たちによるお別れの会のような形式などを採ります。
最近では信教の多様化や華美な葬儀に対する違和感から、祭壇すら飾らず費用もほとんどかからないこのような葬儀を希望する人も増えてきているようです。
もっともこのような考え方が最近のものかというと、戦後直後に活躍した白洲次郎の「葬式無用、戒名不要」という有名な言葉があるように、昔からそのような考え方自体はあったのだと思います。
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K.I.G.行政書士事務所
東日本大震災をきっかけに、法律、制度、行政サービス等で知らない人が損をする事がないよう、市民に寄り添う市民法務サービスの提供を志し開業致しました。得意分野は相続、遺言、エンディングノートの活用といった市民法務分野ですが、各種許認可、会社設立のご支援等により中小規模の事業者を法律、手続き面で支えるサービスを提供しております。