【Q】前妻と離婚をせず、現在の妻と事実婚状態での相続について
私は前妻と3年間の結婚生活を送った後別居、籍はそのままに現在の妻と事実婚状態になり、以来30年間暮らしてきました。
5年ほど前に脳卒中で倒れてから働くこともできず自宅で療養生活を送ってきました。
その間、献身的に私の世話をしてくれている現在の妻に5000万円ほどある財産の全てを遺してやりたいが、それは可能でしょうか。
どちらの妻との間にも子供はおらず、前妻は別のパートナーと暮らしています。
私の身寄りは他に弟が1人います。
-
【A】専門家の回答
質問のケースは、被相続人と長年暮らし、献身的に介護をした内縁の妻(あるいは夫)がいる場合ですが、このまま質問者が亡くなってしまった場合はどうでしょうか。残念ながら内縁関係にある人に相続権は発生しません。相続権があるのは戸籍上の配偶者だけです。長く別居して、その間それぞれが別のパートナーと事実婚生活を送ってきた事が証明されたとしても、遺産相続において「配偶者」として扱われるのは戸籍上の妻、あるいは夫だけです。
つまり質問のケースでは前妻の方が配偶者として、子も親もいないという事は、相続順位第1位、2位の直系卑属、直系尊属の該当者が存在せず、相続順位第3位の弟が相続人になります。法定相続割合は前妻が3/4、弟が1/4となります。
では、質問者の願いを実現するにはどうすればいいでしょうか。
① 前妻と正式に離婚、現在の妻と入籍する
質問者のケースでは前妻も新たなパートナーと結婚生活を未入籍のままで送っています。
という事は、質問者の悩みと同じ問題を抱えている可能性があります。
ここは一度話し合いを持ち、正式に離婚した後、それぞれ現在のパートナーと入籍することを提案してみることもできるかもしれません。
そうなれば質問者の前妻には相続権はなくなり、現在のパートナーに配偶者としての相続権が生じます。
ただし、繰り返しになりますが、質問者には弟がいますので、入籍した現在の妻が配偶者として3/4、弟が1/4の法定相続分を持つことになります。
現在の妻に全額を相続させたい場合はその旨を遺言すればいいでしょう。傍系の相続人には遺留分はありませんので遺言さえあれば妻に全財産を相続させる事ができます。
遺言を作成する場合は公正証書遺言とし、遺言執行人を指定しておくことをお勧めします。
② 遺言を作成し遺贈、ただし遺留分に注意
前妻が離婚に応じない場合はどうでしょうか。
その場合は現在の妻に全額を相続させる事は難しくなります。それでも遺言を作成することで一定の財産を譲る事はできます。弟は相続人から外します。①の例で説明した通り、弟には遺留分はありませんから相続人から完全に外すことができます。
そしてこの場合、つまり法定相続人が妻と弟(相続順位第3位)である場合の妻(配偶者)の法定相続分は3/4であり、そのさらに1/2つまり3/8が遺留分として認められています。
この遺留分を侵害しない範囲で現在の妻に遺贈する遺言を作成すればいいのです。
「私の財産の5/8を、長年私を支えてくれた〇〇に遺贈する」
といった内容になります。
こうすれば戸籍上の妻である前妻から遺留分減殺請求を出されることもなく、全額とはなりませんが、現在の妻に財産を残すことは可能です。
他にも毎年少しづつ生前贈与していくという方法も考えられますが、その場合には額と方法に関して十分な試算を行って、税金面で不利益を被ることがないよう注意が必要です。
-
K.I.G.行政書士事務所
東日本大震災をきっかけに、法律、制度、行政サービス等で知らない人が損をする事がないよう、市民に寄り添う市民法務サービスの提供を志し開業致しました。得意分野は相続、遺言、エンディングノートの活用といった市民法務分野ですが、各種許認可、会社設立のご支援等により中小規模の事業者を法律、手続き面で支えるサービスを提供しております。