遺言の例をご紹介します。
次にご紹介する例では、法定相続分とは異なる割合の相続分を指定する遺言となっています。
遺言がない場合は法定相続分通りに遺産分割を行うことを基本に話し合いが行われるでしょう。
そして遺産分割協議が整わなければ、家庭裁判所での調停、審判が行われることになりますが、その場においてもやはり法定相続分が基準になります。
しかし、遺言によって意思表示をすることにより、遺言者の希望通りに遺産分割が行われるように備えておくことができます。
早速、遺言の例を見てみましょう。
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遺言の例
遺言者の目的、思いに注目してみてください。
遺言の目的
この例では法定相続分とは異なる割合で遺産分割を行うよう指定しています。
法定相続分通りであれば、次のようになるはずです。
妻・山田花子 ・・・ 二分の一
長男・山田一郎 ・・・ 四分の一
長女・川野みどり ・・・ 四分の一
遺言者はこの割合から、妻の相続割合を増やし、長女の相続割合を減らしています。
その思いはどこにあるのでしょうか。
この遺言には付言事項として、遺言者の思い、相続割合を決めた理由が説明されています。
ここでのポイントは2つ、
①財産形成
②事業承継
にあります。
財産形成における妻の功績というのはたとえサラリーマン家庭の専業主婦であったとしても、内助の功、また家庭を
守ることにより、一家の働き手が仕事に専念できるように支えるという点で評価されます。
そのために遺産相続に際して妻の相続割合は遺産全体の半分(妻と子が相続人である場合)、三分の二(妻と父母が相続人である場合)、四分の三(妻と兄弟姉妹が相続人である場合)というように最も優遇されているわけです。
しかし、この遺言の例では事業主としての遺言者を、その事業の面でも補佐し支えてきたという、大きな役割があったことがわかります。
ここに上記の①のポイントがあります。遺言者は財産形成における妻の特別な貢献に対し、報いたいと願っているわけです。
また、二人の子のうち、長男と長女はそれぞれ立場が異なります。
長男は遺言者の事業を継承していくことが期待されるのに対して、長女は嫁ぎ先で経済的に恵まれた生活を送っており、事業承継に関しても多くの役割が期待されているわけではありません。
二人の子の扱いの違いには上記の②のポイントが関係してきます。
遺留分に注意
遺言者は付言事項の中で遺留分という言葉を使っています。
遺留分というのは配偶者および直系尊属、直系卑属のみに認められた権利で、遺産相続における最低限保証される相続分のことを言います。
例えば、遺言者が一切相続させないと遺言したとしても、遺留分だけは権利が残ります。そして今回の例のように相続人が妻と子の場合、妻と子にはそれぞれ法定相続分の二分の一が遺留分として認められます。
長男の山田一郎、長女の川野みどりには法定相続分であるそれぞれ四分の一の、さらに二分の一、つまり八分の一づつが遺留分として保障されることになります。
遺言を書く際にはこの遺留分を侵害するような内容となることを避けるよう注意することが賢明です。
付言事項とは
付言事項とは何でしょうか。
遺言において相続割合や、遺産分割方法の指定、さらに相続人の廃除や子の認知といった法的効力のある項目に対し、付言事項とは法的な効力を持たない項目、今回の例で言えば遺言で示す相続割合を決めた理由を説明している部分がこれに当たります。
そして付言事項は法的な効果を持たないとはいえ、遺言の納得性を高めるうえで大変大きな役割を果たします。
なぜなら人は理由のわからない指示よりも、理由のはっきりした指示を受け入れやすいからです。
例えば、「立ち入り禁止」とだけ書いてある看板と、「立ち入り禁止 ー 高圧電流のため」と書いてある看板ではどちらの看板に効果が期待できるでしょうか。
もちろん、納得できる理由の添えられている後者であることは疑いの余地がありません。
今回の遺言では妻には法定相続分より多く、そして長女には法定相続分より少ない割合が指定されていますが、付言事項としてその理由、そして遺言者の思いが伝えられていればだれにとっても納得して受け入れやすいものとなるでしょう。
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K.I.G.行政書士事務所
東日本大震災をきっかけに、法律、制度、行政サービス等で知らない人が損をする事がないよう、市民に寄り添う市民法務サービスの提供を志し開業致しました。得意分野は相続、遺言、エンディングノートの活用といった市民法務分野ですが、各種許認可、会社設立のご支援等により中小規模の事業者を法律、手続き面で支えるサービスを提供しております。