遺言の例をご紹介します。

次にご紹介する例では、遺産の分割方法を指定し、不動産については全てを息子に相続させるという遺言となっています。

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遺言がない場合は法定相続分通りに遺産分割を行うことを基本に話し合いが行われるでしょう。

しかし、代々続いたような古い家柄の地主で、相続財産に多くの土地や家屋といった不動産が含まれる場合は特別な配慮が必要になってきます。

なぜなら、〇〇家という家系の先祖伝来の土地が遺産分割によって離散することが懸念されるためです。

比較的若い配偶者が残された場合、いずれ再婚することも考えられます。そしてそうなれば再婚によって先祖伝来の土地が新しい嫁ぎ先に渡ってしまう事にもなるからです。

それを嫌う親類が出てくることも当然考えられますし、そうなると残された配偶者にとって再婚の妨げになってしまう場合もあります。

そのような事にならないためにも、遺言を作成することで問題を未然に防ぐことができます。

早速、遺言の例を見てみましょう。

 

遺言の例

遺言者の目的、思いに注目してみてください。

遺言-04 先祖伝来の不動産は息子に相続させる

 

遺言の目的

この例では相続財産の分割の割合ではなく、分割の方法そのものを指定しています。

法定相続分通りであれば、次のようになるはずです。

妻・山田花子 ・・・ 二分の一

長男・山田一郎 ・・・ 二分の一

そして、法律には分割割合は規定があるものの、分割の仕方、つまり誰がどの財産を相続するかに関しては何も指定はしません。

 

すべてが金融資産であればそれも問題ないでしょう。現金にしろ、有価証券にしろ、換金したばあいの価値に差があるわけではないからです。

しかし、前述の通り、土地家屋については山田家先祖伝来の土地という問題が関係しています。

 

残された妻の花子さんにとっては、夫亡き後、山田家先祖伝来の土地を守っていく事に残りの人生を縛られるのは大きな負担となるかもしれません。

特に花子さんがまだ比較的若いような場合には、不動産を相続させない代わりに、生活を再建するための資金として金融資産を遺してあげることで、花子さんの今後の人生に選択肢が生まれるような配慮を遺言者は望んでいる訳です。

 

ここでの遺言者の思いは、残された妻が家というものに縛られることなく、とはいえ生活に困るようなことにならないようにというものです。

そのためにあえて妻に不動産を相続させないことで、妻に対する配慮をしている訳です。

 

山田家先祖伝来の土地は、一人息子の一郎さんに託し、妻には当面困らないように金融資産が渡るような遺言、説明されれば誰もが納得しやすい理由ですね。

 

遺言作成の注意点

そして、ここでの注意点を挙げておきます。

①遺留分に注意

②納得できる説明

遺産に占める不動産の割合が大きすぎる場合、特に注意しなければならないのは遺留分を侵害しないように、という点です。

※遺留分について、詳しくは他の記事をご参照ください。

遺産分割というのは非常に繊細な問題が関係することが多く、特に相続人当事者のみならず、その配偶者や子供、あるいは他の親族、場合によっては相続人の債権者など、多くの人が絡む問題に発展する場合もあります。

そのため、遺留分の侵害というような後々問題になりそうな点はあらかじめ排除しておかなければなりません。遺産のほとんどが先祖伝来の土地であるような場合は専門家のアドバイスの下、事前の対策が重要です。例えば、妻に相続させる土地建物を別に用意しておくこともできるでしょうし、土地を担保に資金を借り入れ、アパート経営が出来るように準備することも考えられます。それは相続税対策にも繋がるでしょう。

 

また、納得できる説明がされているか、という点も重要です。

なぜなら人は理由のわからない指示よりも、理由のはっきりした指示を受け入れやすいからです。

例えば、「立ち入り禁止」とだけ書いてある看板と、「立ち入り禁止 ー 高圧電流のため」と書いてある看板ではどちらの看板に効果が期待できるでしょうか。

もちろん、納得できる理由の添えられている後者であることは疑いの余地がありません。

 

今回の場合は相続人だけではなく、他の親族にも理解しやすいように手紙の形で思いを書き遺しておくようなことも有効でしょう。あるいは事前に遺言について相続人すべて、さらには他の親族にもその思いを十分に説明しておくなどの配慮があれば、その後の人間関係を良好に保つ上で大きな助けになるに違いありません。

 

遺言執行者

また、遺言執行者を指定しておくことも検討してみてください。

遺言執行者とは遺言者に代わり、その遺志を実現するために働く人です。

そして遺言の執行に関する遺言執行者の権限は強く、民法1013条には「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」と規定されています。

 

信頼できる人、できれば事前に相続人とも面識のある、法律知識の豊富な人に遺言執行者となってもらえば安心でしょう。

遺言執行者は遺言者が遺言の中でその指定を行うことができます。(民法1006条)

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K.I.G.行政書士事務所

東日本大震災をきっかけに、法律、制度、行政サービス等で知らない人が損をする事がないよう、市民に寄り添う市民法務サービスの提供を志し開業致しました。得意分野は相続、遺言、エンディングノートの活用といった市民法務分野ですが、各種許認可、会社設立のご支援等により中小規模の事業者を法律、手続き面で支えるサービスを提供しております。