非行などの理由により、実の息子に遺産を遺したくないが、息子の子供、つまり孫には遺産を分けたい。そんなケースについて考えてみましょう。

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ケース『自分を虐待し続けてきた息子には資産を渡したくない』

Aさんは妻は既に他界していて、現在は独身です。そのため2人の子供たち、娘と息子および息子の妻と子供つまりAさんにとっては孫が唯一の身寄りです。

そしてAさんは数年前に引退するまで会社を経営していて数億円の資産をもっています。

Aさんは引退後、娘と同居しており、娘は病気がちなAさんの病院への送迎等身の回りの世話を献身的に行っています。

一方、Aさんの息子は定職につかず、ギャンブル依存症であり、Aさんを度々訪ねては金品の無心をしてきました。Aさんが要求を渋ると暴力をふるうこともあり、その時の怪我が原因で入院を要する事もありました。

最近体調のすぐれないAさんは自分にもしものことがあった場合、数億円の資産はどうなるのだろうと考え始めました。

献身的に世話をしてくれる娘には十分に報いたいと思う一方、自分を虐待し続けてきた息子には資産を渡したくありません。しかしかわいい孫には遺産を受け継がせてやりたいと考えています。

どうすればAさんの願いは叶うのでしょうか。

 

答え『相続人廃除の申請手続を行う』

息子を相続人から外すためには家庭裁判所に相続人廃除の請求をし認められなければなりません。

 

例えば「娘と孫に半分づつ相続させる」との遺言の作成をするのではダメなのでしょうか?

はい、不十分です。

まず、孫ですが、このケースにおいては孫に相続権はありません。なぜなら孫はAさんの息子の代襲相続人に過ぎないからです。息子が相続権を死亡や相続放棄等で相続権を失わない限り孫には相続権は発生しません。そのためここでは遺言で行う遺贈ということになります。

さらに、直系の相続人の場合には遺留分という権利が認められているため、このケースでは法定相続割合の半分、つまり1/2の半分の1/4が遺留分となり、息子に権利が発生します。たとえAさんが「娘と孫に相続させる」と遺言しても、その遺言によって遺留分を侵害された息子が家庭裁判所に遺留分減殺請求を申し立てることにより、Aさんの遺言は遺留分を侵害している部分だけ無効となり、相続割合は娘に3/4、息子に1/4とされます。

Aさんが遺言通り娘と孫に相続させるには遺留分を持つ息子を相続人から除外する「相続人廃除」を家庭裁判所に請求しなければなりません。それが認められた場合、息子は相続人の立場を失いますので、遺留分も無くなります。これは非常に重い決定ですからそれ相応の理由が必要であり、次の要件を満たさなければなりません。

民法892条

遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

息子が相続人から廃除されると孫は代襲相続人として相続権を持つことになります。

そうなればAさんは娘に2/3、孫に1/3など、直系卑属である孫の遺留分を侵害しない範囲において自由に遺言することが出来ます。

 

ポイントー相続人廃除とは

相続人廃除とは、被相続人が家庭裁判所に請求することにより、直系の相続人から相続権を剥奪する制度です。

 

その要件としては、

① 「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき」(民法892条)と規定されています。

② 対象となるのは遺留分を持つ相続人、つまり配偶者、直系尊属(父母)とその代襲相続人、直系卑属(子)とその代襲相続人です。

③ 家庭裁判所に被相続人から請求する必要があります。ただし遺言の中で請求を行うこともできます。

要件が満たされて家庭裁判所の審判があると対象となる相続人は相続権を失います。ただし、代襲相続には影響しませんから、相続権を失った人の代襲相続人が代わって相続人になります。

相続人廃除は請求者により取り消しの請求をすることが可能です。

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K.I.G.行政書士事務所

東日本大震災をきっかけに、法律、制度、行政サービス等で知らない人が損をする事がないよう、市民に寄り添う市民法務サービスの提供を志し開業致しました。得意分野は相続、遺言、エンディングノートの活用といった市民法務分野ですが、各種許認可、会社設立のご支援等により中小規模の事業者を法律、手続き面で支えるサービスを提供しております。