被相続人となる人が配偶者や子供に著しい虐待を受けるなど特別の事情がある場合、自分にもしものことがあっても遺産を相続させたくないと考えるかもしれません。

そのような場合にどうすれば良いのでしょうか。例で解説しましょう。

注目すべき点は、遺留分に関する直系、傍系の違いそして相続人廃除という制度です。

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ケース① 『相続させたくない!遺言が有効なケース』

Aさんは独身で子供もおらず、両親はすでに他界しているため、身寄りは姉と弟の二人きりです。

そしてAさんは数年前に引退するまで会社を経営していて数億円の資産をもっています。

Aさんは引退後、姉と同居しており、姉は病気がちなAさんの病院への送迎等身の回りの世話を献身的に行っています。

一方、Aさんの弟は定職につかず、ギャンブル依存症であり、Aさんを度々訪ねては金品の無心をしてきました。Aさんが要求を渋ると暴力をふるうこともあり、その時の怪我が原因で入院を要する事もありました。

最近体調のすぐれないAさんは自分にもしものことがあった場合、数億円の資産はどうなるのだろうと考え始めました。

献身的に世話をしてくれる姉には十分に報いたいと思う一方、自分を虐待し続けてきた弟には資産を渡したくありません。

どうすればAさんの願いは叶うのでしょうか。

 

答え

Aさんは遺言を作成し、遺産を全て姉に相続させる旨の意思表示をすれば良いのです。

その場合、有効と認められる遺言となるよう注意が必要です。出来れば行政書士などの専門家に依頼し、公正証書遺言としておけば安心です。

 

ケース② 『相続させたくない!相続人廃除請求が必要なケース』

別の例を考えます。

先ほどの例と少し状況が違っていて、2人の兄弟たちはAさんの子供たちに変わっています。

 

Aさんは妻は既に他界していて現在は独身です。そのため2人の子供たち、娘と息子が唯一の身寄りです。

そしてAさんは数年前に引退するまで会社を経営していて数億円の資産をもっています。

Aさんは引退後、娘と同居しており、娘は病気がちなAさんの病院への送迎等身の回りの世話を献身的に行っています。

一方、Aさんの息子は定職につかず、ギャンブル依存症であり、Aさんを度々訪ねては金品の無心をしてきました。Aさんが要求を渋ると暴力をふるうこともあり、その時の怪我が原因で入院を要する事もありました。

最近体調のすぐれないAさんは自分にもしものことがあった場合、数億円の資産はどうなるのだろうと考え始めました。

献身的に世話をしてくれる娘には十分に報いたいと思う一方、自分を虐待し続けてきた息子には資産を渡したくありません。

どうすればAさんの願いは叶うのでしょうか。

 

答え

息子を相続人から外すためには家庭裁判所に相続人廃除の請求をし認められなければなりません。

 

ケース①のように遺言の作成をするのではダメなのでしょうか?

はい、不十分です。

というのは直系の相続人の場合には遺留分という権利が認められているからです。このケースの場合、法定相続割合の半分、つまり1/2の半分の1/4が遺留分となります。たとえAさんが「全額を娘に相続させる」と遺言しても、その遺言によって遺留分を侵害された息子が家庭裁判所に遺留分減殺請求を申し立てることにより、「全額を娘に相続させる」というAさんの遺言は遺留分を侵害している部分だけ無効となり、相続割合は娘に3/4、息子に1/4とされます。

Aさんが全額を娘に相続させるには遺留分を持つ息子を相続人から除外する「相続人廃除」を家庭裁判所に請求しなければなりません。それが認められた場合、息子は相続人の立場を失いますので、遺留分も無くなります。これは非常に重い決定ですからそれ相応の理由が必要であり、次の要件を満たさなければなりません。

民法892条

遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

 

ポイントー相続人廃除とは

相続人廃除とは、被相続人が家庭裁判所に請求することにより、直系の相続人から相続権を剥奪する制度です。

 

その要件としては、

① 「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき」(民法892条)と規定されています。

② 対象となるのは遺留分を持つ相続人、つまり配偶者、直系尊属(父母)とその代襲相続人、直系卑属(子)とその代襲相続人です。

③ 家庭裁判所に被相続人から請求する必要があります。ただし遺言の中で請求を行うこともできます。

 

要件が満たされて家庭裁判所の審判があると対象となる相続人は相続権を失います。ただし、代襲相続には影響しませんから、相続権を失った人の代襲相続人が代わって相続人になります。

相続人廃除は請求者により取り消しの請求をすることが可能です。

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K.I.G.行政書士事務所

東日本大震災をきっかけに、法律、制度、行政サービス等で知らない人が損をする事がないよう、市民に寄り添う市民法務サービスの提供を志し開業致しました。得意分野は相続、遺言、エンディングノートの活用といった市民法務分野ですが、各種許認可、会社設立のご支援等により中小規模の事業者を法律、手続き面で支えるサービスを提供しております。